佐藤るり官能小説
ドールスピーク
第1章 - 景子1
銀杏の花は、春に新葉と共に生じ、雄花は穂状で、雌花は花柄の先端に二つ咲く。花粉から精子を生じて受精するなど古代植物の形質が見られる。
桜ではなく銀杏を植えた校門からのアプローチは、秋には種子が大量に落ちて、踏み潰すと異様な匂いを放つ。女生徒などはそれらを避けるように、下を向いて注意深く歩くが、幾日も履き続けた汚いソックスやボロボロの毛先との取り合わせはあまりに滑稽で、思わず苦笑してしまうほどだ。
無論私自身はその黄色い種子を踏み潰して歩くのだ。9センチヒールにこびり付いた黄色や白のその残骸は、一日中、犬の糞のような匂いが消えず、鼻を近づけると吐き気がする。室内に入ればその匂いは部屋中に充満する。秋の私の朝は、靴にこびり付いた黄色い汚物を掃除させることから始まるのである。

男女共学といっても使う教室や出入り口まで分けられた校舎では、生徒同士の視線も会話もどこか不自然で、わざわざ作られた体制が、あたかももともとあった世界であるような振りをし続けているようだ。私の実際の職場である男子棟は、与えられた餌に気づかない振りをするイノセントな生徒たちの陣営で、彼らのぎこちない表情に、赴任直後は戸惑った。
しかし今となってはそのぎこちない無実さをヘッジしていくことで、揺ぎ無い忠誠心を生み出せるような気がしている。実際、こちらには都合がいいのだ。無実なもの同士が盛りあうこともなく、生徒たち自身が自分の孤独と向き合うことすら学ばないのだから。女子たちは、ボンレスハムのようなむちむちの太い脚を、グラムいくらで売り払うことぐらいでしか実感できない希薄な自我しか持ちえていないし、男子は精々画面に映るモノ化したツルツルの女に、空で射精し続ける。
随分昔のことのように思えるが、私も7年前までは高校生だった。母は少女のような人で、同時に処女のような人でもあり、娘の鞄から避妊具が出てきた夜には何も言わずに2階へ閉じこもった。そんな母に育てられた私は、イノセントではない自分自身をコンプレックスに思い、自意識に溢れた思春期を過ごしたのだ。自意識の希薄な女子生徒に、嫉妬はすれど、敵だとは思わない。
異様な空気というのは、感染する。雇用状況の事情もあってか、ほとんど新任教師の入らない当校は、まるで社会から忘れられたように閉じられた空間で、生徒や教師たちまでもが、何かを見て見ぬ振りをする共犯者のように、含み笑いで頷き合い、同じような目つきをしてうろついている。それは不気味なことであり、また頼もしいことでもある。分断された牢獄で、共犯者同士のルールが肯定され続けることになるからだ。
しかし、世界に存在していながら、社会に迎合されていないということは、どういうことなんであろう。私が生徒たちにさせる、屈辱的な行為を、正しいとは思わない。しかし、善悪の判断は一度狂ってしまえばそのまま空回りしはじめる。誰も申し立てするものはいないし、私自身、校内から出ると回り始める終わらない日常をやり過ごすために、何かしら救いを求めているのだろうと思う。
教壇に着くまで感じている迷いも、生徒たちを一段上から眺めると何故か落ち着いてしまう。
「金子くん、」
手前から3番目でカフカに読みふけっている黒髪の少年を呼びつける。
「はい、なんでしょうか、先生。」
ずっと前に私が決めた応答文句をなぞる様に少年は応える。どの生徒も同じように応えるのである。何か仕打ちを怖がる様子もなく、かといって何か至福を感じている様子はなく、ただ返事をする。指図に従う。まるで逆らえないルールが存在するかのように。
「これを綺麗になさい。」
そういって彼の鼻先に近づけたヒール靴に、少年は多少顔を歪めたが、次の瞬間むしゃぶりつくように踵を舐め出した。焦燥を感じているのか、口の周りが唾液や銀杏の粕で汚れても気にする様子もなくしゃぶり続けている。そういった生徒の行為を見るとき、幸福感や快感とも違った、でも何かにたとえることも出来ない感情を、鼻の奥に感じる。
私は何かスナッフ映像や陵辱もののビデオに興味があるわけでもなく、ニンフォマニアであるとも思わない。ただ、よくわからない使命感で、この生徒たちをこのようにして扱うことでしか、この場にいることができないのである。汚い靴に舌を這わせる10代の少年は、教室の外に出れば恋愛範疇にも、むしろ性欲の対象にも感じないが、今私の支配下にある彼は、やはりいとおしく、守るべきものとして存在している気がする。
舐めるのを辞めた彼は黙って両手を床についた。
「綺麗になったの?」
「はい。」
「そう。いいこね。パンツを下ろしなさい。」
クラスの生徒全員の前で陰部をさらした彼に、さらにわたしは指示を出す。
「いい?ゆっくりでいいからまず自分でイクのよ、おちんちんを持って。」
気恥ずかしい振りをしながらペニスを握り、手を動かす彼を、私も他の生徒も、笑うことなくただ見つめている。陰部丸出しの少年はただ自分の手先を見つめて、自らを絶頂に導こうとする。
「イキそうです、先生」
2分も動かしていないのに、少年はそう告げ、初めて視線を私に向ける。
「横山くん、前へ出て、手伝って」
私は信頼の置ける委員長である生徒を呼びつけ、マスターベーション中の少年の前に跪かせる。
「ああ、先生、もう我慢できません、イっていいですか?」
「いいわ、イキなさい。横山くんの口の中に、たっぷり出すのよ。」
オルガズムの瞬間に、私は生徒を私のほうを向かせる。金子という少年も、ペニスを他の生徒の口に突っ込みながら、私を見つめて、果てた。目を閉じる行為は、ここではペナルティの対象になる。
「キモチよかったの?どう?横山くん、いっぱい出てる?」
口に精液を含んだ生徒は、応えるように私のほうへ向き直り立ち上がった。
「たくさん入っているの?ちょうだい。」
私は生徒に揃いの首輪をつけて、引き寄せたり鎖に繋いだりするとき、その先の輪を使う。横山という生徒の首の輪をひっぱり、口の周りの精液を舐めた。射精から時間の経過した精液は、苦く、発酵臭がする。
少しずつ口を開かせ、中の精液を吸い取る。他の生徒はただじっと見つめる。精液と唾液の混ざった液体は、ほとんど味も匂いもなく、私はじゅるじゅると音をたてながらそれを吸い取る。もうほとんど吸い終えた気になっても、私は生徒の口の中に舌を入れ、しつこくクチビルに吸い付く。
気づくと、横山は勃起し、私の下着は愛液で濡れているのだった。





